チベット文化研究会会報に掲載されたものに加筆し、写真を一部変更したものです。 |
ツェチョリン寺とともに「リン・シ」(四林)の一つとして栄華を誇ったツェモリン寺(ツォムンリン、ツォモリン)は、ラサのラモチェ(小昭寺)の南にある。ツェモリンのトゥルク(いわゆる活仏)はダライ・ラマ法王の摂政を2度つとめたことがあるそうな。 ラサのメインストリート「北京東路」から横道を通ってツエモリン境内に入ると、そこに待っていたのは、年季の入ったマニ車片手に参道沿いにずらりと腰をおろしている爺さん婆さんの大群だった。 集会堂の中は、もっとすごいことになっていた。 入った瞬間は暗くてよくわからなかったが、目が慣れてきて見回すと、念仏を唱えつつ世間話に興じる爺さん婆さんが隙間なくぎっしり。別に特別な日だからではない。いつ行ってもそうなのだ。 ツェモリンは、いつからか、爺さん婆さんたちの憩いの場「とげぬき地蔵」と化していたのである。 手にしている先祖代々受け継がれてきたマニ車はどれも巨大。彫り物などの装飾も凝りに凝っていて、最近出回っている軽薄短調志向のチャチなマニ車とは一線を画している。色とりどりの毛糸で編んだ手作り「マニ車カバー」をかぶせるのがトレンドと見た。 |
ツォモリンのすぐ西にあるシデ・タツァン(シデ学堂)は、9世紀のティ・ラルパチェン王が創建したと伝えられる。後にレティン寺に属し、レティン・ラプラン(レティン活仏のお住まい)もここにある。いや、あった。 アクセスは、やはり北京東路から。 例によって門をくぐると、タルチョのように洗濯物が干され、牛の寝そべる、のどかな中庭。チベットの多くの寺が一時期そうなったように、ここも建物のほとんどは普通のアパートとして使われている。 そして、タルチョがたなびく真正面にそびえる見事な廃墟。 正面入り口の壁だけがなんとも中途半端に残されて、あとは全壊だ。 入り口の階段に婆ちゃんが2人。 バター茶のポットが傍らにあるところをみると、ここは彼女たちの定位置。日々ここでこうして何かを(何を?)しているのであろう。 子どもが3人現れた。やつらはここの非公式ガイドらしい。勝手にガイドをしておいて後で金を請求するという手口が見え見えだ。 「こっちに来い!」と強引に招かれて、穴をふさいである板の隙間をくぐって奥に入ると、そこはかつて本堂だったらしき空間。 彫刻や着色をほどこした柱が倒されたり、切断されたりしたまま、積み重なっていて足場が危うい。 上は青空。 辺り一面に草花が茂っていて緑が美しい。 |
3人の子どもは、タシとチュタとペンパ。カメラをオモチャにしたがるので、気をそらすのに苦労した(笑)。 3人はサービス精神旺盛で、それぞれいろんなモノを見せたがる。 「ほら、ここからポタラが見える! 写真撮ろう、写真!」 壁のところどころに色あせた壁画が残っている。 「これがルゥ(龍神)」 「これは阿弥陀!」 「ほら、こんなところに仏像が!」 本堂正面の奥に、打ち砕かれて材木に埋まった仏像があった。色が赤っぽいのだけはわかるが、まったく原型をとどめていない。 「これはジグジェ!」 ゲルク派の守護神、水牛の顔をもつ忿怒尊ドルジェ・ジグジェ(怖畏金剛)だそうだ。 手の大きさがこれで、しかも、ジグジェには手がたくさんあったはず。仏像はかなり大きかったのだろう。やつらの言うことが正しければの話だが。 ジグジェの手を抱えて、「チィ、ニィ、スム!」と記念撮影。 正面奥にはひときわ高い3階建て。といっても壁しか残っていない。かつてチベットの多くの寺の壁画がそうなったように、階級闘争がどーたらというスローガンが漢字で大書されていた。この一番高い建物が「レティン・ラプラン」だと子どもは言っていたが、本当かどうかはわからない。 |
再び板の隙間をくぐり抜けて、入り口を守る(?)婆ちゃん2人組のところへ戻る。よく見ると、入り口横の壁には壁画が薄く残っている。 材木置き場かゴミ捨て場のように見えるそこで、婆ちゃんたちはひたすらマニ車をまわし、数珠を繰っていた。日が傾いてくると、直射日光が当たってまぶしい。 婆ちゃんの一人は、陰謀にハメられて失脚し、ポタラの監獄で毒を飲んで死んだと言われている先々代レティン・リンポチェのストーリーを、まるで自分で見ていたかのように話してくれた。 2000年、カルマパ17世が亡命した直後に、中国政府は2歳(!)の少年をレティン・リンポチェの転生者だと認定して即位させた。ダライ・ラマ法王はこれを承認していない。レティン活仏は、またしても政治のゴタゴタから逃れられない運命らしい。 2人の婆ちゃんの着ているものが、エンジ+イエローの坊さんカラーだったので、もしや尼さんではないかと思って聞いてみたが、違うとの答えだった。この2人が「何をしているのか」、次はちゃんと聞いてこようと思う。 |
それはだれ?って方→海豚公司を参照。 |