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おばあちゃんたちのマニ車
(1992年アムド・マトゥ)

1992年9月。アムド地方(東北チベット)は、見渡すかぎり草原だ。
青海省西寧からバスで2日目、
草原の真ん中にマトゥという小さな町がある。
黄河源流域への起点として知られているものの、
閑散として、うらさびしい。標高4300m。

9月だというのに吹雪。
宿の部屋では石炭ストーブの使い方に苦労させられた。
吹雪がやむと、あっというまに濃い青色のチベット晴れ。
町はずれにタルチョ(祈祷旗)に囲まれた小さなお堂が一つ建っているのを見つけた。

お堂に近づくと、近所のおばあちゃんが3人、お堂のまわりをコルラ(聖なるもののまわりを右回りに回ること)していた。

石や岩、動物の骨にもお経を刻んだり描いたりしてお供え物にする。お堂の周りには、そうやって供えられたマニ石、マニ骨がうず高く積み上げられている。

おばあちゃんの一人がお堂の鍵を開けてくれた。中にある大きなマニ車を回す。写真を撮ろうとすると、「さあ撮れ」とばかりに、マニ車にかけてあるカバーをめくりあげた。

おばあちゃんは僕が腕に巻いていた数珠を見つけ、中国人でないと知って警戒を解いたようだ。いきなりにこやかに握手。おばあちゃんは僕の数珠を手にして、いつも自分がしているように珠を一つずつ繰り始めた。一つ繰るごとに「オムマニペメフム」と観音菩薩の真言を唱える。数珠の珠は108個あるから、「オムマニペメフム」108連発だ。どんなラマの祝福よりも鮮やかに心に残っている。

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